蝶を狙うコオニヤンマ

2018年のコオニヤンマ(小鬼蜻蜓)の初見は狩りから始まった。
6月2日のこと。山地の枝沢になる広めのくぼに入ったら、虎皮縞模様(黒地に黄色の縞模様)の大きな蜻蛉が蝶を襲っていた。
キアゲハ(黄揚羽)、キタキチョウ(北黄蝶)と襲ったが、それぞれにタイミングが合わずに、逃げられていた。
蝶を狙う虎皮縞模様の大きな蜻蛉を見て、その正体はコオニヤンマであろうと思った。それは、毎年、コオニヤンマが鱗翅目の蝶や蛾を食っているのを目撃していることによる。
ところで、狩りに失敗した蜻蛉は地面にとまった。とまったのを確認して近寄ったら逃げられてしまった。
逃げた先は斜面の上の樹の枝だった(画像 1 )。ちょっと高い位置だが、ようやく撮影できた。大蜻蛉の正体はコオニヤンマだった。


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画像 1 枝にとまったコオニヤンマの雄  


撮られるも嫌だったのか、直ぐに飛び立ち対岸へ飛んで行ってしまった。それでも、対岸であるが、眼の届く枝まで戻ってきてくれた。
狩りに成功しての枝への着地だった(画像 2 )。
複眼や前胸部に白色の粉状の物が付着しているので、獲物は鱗翅目の昆虫。そして、白色の粉状の物は鱗粉と推測できた。


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画像 2 見える場所に戻ったコオニヤンマ 獲物を捕獲してきた  


コオニヤンマが蝶や蛾を襲い、鱗粉を浴びながら、獲物にかぶりついている姿は何度も目撃してきている。そのこともあり、今回、ちょっと離れていたがファインダを覗いて、獲物は鱗翅目と直ぐに判断できた。


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画像 3 鱗粉を浴びながら獲物に食らい付くコオニヤンマ   


画像 3 とは別の角度から撮れやしないかと、体を移動した。その途端にコオニヤンマは獲物をくわえたまま高い樹上へと飛び去ってしまった。

餌食になった鱗翅目の昆虫は、蝶で、スジグロシロチョウ(筋黒白蝶)とモンシロチョウ(紋白蝶)が飛んでいたのでどちらかと思うのだが、角度が悪く確認できなかった。

コオニヤンマは平気でヒトの肩や腕にとまる蜻蛉。でも、獲物を食っている姿を見られるのを嫌がる蜻蛉である。
せっかくの獲物を横取りされるとでも感じるのだろうか。コオニヤンマの食事光景を撮影しようとすると、樹上や到達できない場所へ逃げられてしまう。


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画像 4 複眼の色が未熟さを物語る若いコオニヤンマ 雄  


場所は変わり、偵察に入った場所で足元から大きめな蜻蛉が飛び立った。
惜しいことをしたと思ったが、彼の蜻蛉、戻ってきたら、入り口(出口)地点で待っていてくれた。
彼の蜻蛉は、複眼の色が未熟さを物語る若いコオニヤンマの雄だった。

コオニヤンマの狩猟本能(?)は遺伝子により受け継がれてきているものだろうが、若い個体を観ていると獲物捕獲の成功率は低い。
腹が減って大変なのだろうが、狙った獲物を捕り逃がしても、狩りを体で覚えていくのであろう。

別の場所での目撃だが、若い個体が、せっかく捕獲したモンキチョウ(紋黄蝶)をポロリと落としてしまったのを見たことがある。生餌しか食わないので、狩りは失敗に終わってしまった。
また、その時は、獲物を落とした後は、私の三脚にとまり撮影の邪魔をしていった。

で、画像 4 の若い雄。複眼の色からすると、まだ、餌にはまともにありつけない状態と思われた。


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画像 5 複眼の色が未熟さを物語る若いコオニヤンマ 雌  


戻り道、メスのコオニヤンマが進路を塞ぐようにとまってしまった。
コオニヤンマが地面に静止しているときは獲物を待っているとき。
雌はしたたか。そして、複眼の色が濃い目になってなってきている。
きっと、この若い雌はご馳走にありつけたことであろう。


山地で若いコオニヤンマを見たので、翌6月3日には羽化殻探しに川へ行ってみた。
その川は昨年、羽化殻を沢山回収したり、羽化途中の個体も見たりしている。

現地に着き、早速、コオニヤンマのヤゴが羽化しそうな場所を覗いて見たら、突然に蜻蛉が飛びっ立った。
その蜻蛉は近くの樹にとまった。
樹にとまった蜻蛉は羽化直後のコオニヤンマの雌だった。残念なことに逆光で、記録画像はボケたものになってしまった。


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画像 6 処女飛行後に止まったコオニヤンマ 雌  


いわゆる処女飛行後に止まったコオニヤンマの体色は全体に薄い。羽化直後の複眼は茶褐色。そして、初飛行は5m程だった。
もしも未知の蜻蛉なら、まったく見当の付かない状態だ。
しかし、既知のコオニヤンマだったのであせらずに済んだ。

もし、私が、草藪に入り込まなければ、羽化間もないコオニヤンマはもう少しの時間、草につかまっていたのかと思うと可哀相なことをしたとも思った。


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画像 7 背面から 羽化間もないコオニヤンマの雌  


それにしても、逆光の木漏れ日で、ボケた画像しか記録できなかったのが残念であった。

羽化直後のコオニヤンマが飛び立った辺りを覗き込んだら、特徴的な形の羽化殻が新鮮な状態で見つかった。
まだ数種類のヤゴの羽化殻しか見ていないが、扁平で団扇を連想させるずんぐり体型はコオニヤンマだけだと思う。
大きくて、早苗蜻蛉独特の形状の触角の名残のある羽化殻は一度見たら忘れられない形である。

特徴的な体型だけでなく、コオニヤンマのヤゴの羽化殻の画像をまじまじと見たら、後脚が異様に長いことに気付いた。
成虫も後脚が異様に長いが、幼虫時代から既に後脚が異様に長いことが判った。


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画像 8 コオニヤンマ ヤゴの羽化殻  


山地で成虫を見たので、川へ羽化殻探しに行ってみたが、羽化直後の成虫も見られたので成果は上々だった。
しかし、10時過ぎまで羽化直後の未熟個体がいるとは思わなかった。


コオニヤンマ(小鬼蜻蜓)
不均翅亜目(トンボ亜目) サナエトンボ科 コオニヤンマ属
Sieboldius albardae
サナエトンボ科では最大の蜻蛉として知られている。
見た目では、胸部の大きさに比べて頭部が小さく感じられる。また、後脚が異様に長い蜻蛉である。

http://yagopedia.com/refbook.php?tombo=85 の「トンボ概要」によると、
♂:全長81~93 mm、腹長53~69 mm、後翅長46~54 mm。
♀:全長75~90 mm、腹長52~66 mm、後翅長48~62 mm。
(日本のトンボより引用)
とある(※ 1 )。



コオニヤンマの登場で2018年の初見種は18種目。不均翅亜目では11種目となった。
サナエトンボ科は、ダビドサナエ(だびど早苗)、ヒメクロサナエ(姫黒早苗)、それと、ヤマサナエ(山早苗)に続き、4種目となった。


   ---   付記 Sieboldius albardae
日本語表記の属名は「コオニヤンマ」。ラテン語表記では「Sieboldius」。
植物でも時々気付くのだが、ラテン語表記が、江戸時代にスパイ容疑で国外追放になったドイツの学者、シーボルトに由来のありそうな綴りだった。せっかくなので調べてみた。

調べてみたら、イネ(おいね)さん(※ 2 )の父親の、オランダ人と偽って入国したシーボルト(Philipp Franz von Siebold)だった。
ドイツ語表記の Siebold が、ラテン語表記では Sieboldius とことで、属名はシーボルトそのものだった。いわゆる、献名であった。
Sieboldius を無理にカタカナ表記すると、「シボルディアス」とか、「シボルディウス」になるのであろう。

なお、種名の「albardae」も Albarda さんへの献名とのことだったが、何処のどなたか分からなかった。

でも面白いことが分かった。
Sieboldius albardae Selys, 1886 。和名コオニヤンマ。
Sieboldius japponicus Selys, 1854 。マレーシア辺りにいる Sieboldius属の蜻蛉。

「Selys」は蜻蛉の学名でよく目にするが、ベルギーのセリ(Edmond de Sélys Longchamps)さんのこと。
そのセリさんが標本とラベルを間違って登録したそうで、間違いがなければ、和名コオニヤンマの学名は Sieboldius japponicus になっていたとのことだった。
そして、マレーシア辺りにいる Sieboldius属の蜻蛉の、学名は Sieboldius albardae だったことになる。
入れ替え、誤りがあっても訂正できないのが学名のしきたり。
Albarda さんはマレーシア辺りにいる蜻蛉を調査・採集した人かも知れない。


※ 1
テーマ「蜻蛉の紀 2018」 を書き始めて手元の資料に蜻蛉の大きさが記載されていないことに気付いた。
Webでよく参考にするサイトの一つに、「ヤゴペディア」 http://yagopedia.com/ がある。九州北部の方の運営らしい。
蜻蛉の紀 2018では蜻蛉の大きさを記載して記録することにしたので、 http://yagopedia.com/ さんのデータを引用している。
記事ごとに引用するので、連絡先が分かれば承諾を得てから引用しようと思ったが、サイト内を見ましても連絡先が不明だった。
同サイトのトンボ概要に、最近、(日本のトンボより引用)の1行が加わったので、ヤゴペディアからの引用に触れておいた。同サイトの管理人さんに連絡が取れれば好いのだが。

※ 2
シーボルトの娘として知っていたが、それだけだった。
それが、江戸末期に、革命軍としての薩長連合軍の総指揮を執った村田蔵六(後の大村益次郎)に興味を持ち、司馬遼太郎さんの小説「花神」を読んだことがある。
その小説においねさんが登場し、おいねさんの輪郭が分かってきた。

大村益次郎が出れば、小栗上野介も出てくる。書き始めれば、蜻蛉からどんどんと離れていってしまうのでこれ以上は書かないことにする。




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