オニヤンマの歌垣

万葉の時代にはすでに歌垣(うたがき)が定着していたという。
歌垣の風習は、近世以降では、鎮守様の祭りや、盆踊りなどに引き継がれてきた。
そして、つい近年まで、その風習は、古い時代の歌垣の名残として続いてきたという。

さて、回りくどい書き方をしてしまったが、ちょっとした稜線のこぶ(頂)で沢山のオニヤンマ(鬼蜻蜓)たちを見た。そのオニヤンマたちの行動を見ていて、歌垣を連想してしまった。
そこで、オニヤンマの歌垣と題して記録しておくことにした。
なお、歌垣の風習や、近世以降の、鎮守様の祭りや、盆踊りなどについては、庶民史や民俗で伝承されてきている。


2015年9月5日、水辺でオニヤンマの雄の水上回遊飛行を眺めていた。
回遊飛行をしながら、時々、斜めに急下降して、頭部を水面に叩きつけていた。そして、頭部を水面に叩きつけるのと同時に斜めに急上昇して、回遊飛行に戻っていた。謎の行動であった。
水面、もしくは水面直下の獲物を捕獲する行動であろうと推測した。しかし、急下降も急上昇もあっという間の出来事なので、まったく撮影どころではなかった。
しばらく眺めていると、謎の行動の後で、視界からオニヤンマが消えることがあった。そして、気付くと、水上回遊飛行を続けていた。


画像

画像 1 オニヤンマの雄 水上回遊飛行の翅休め  


私が確認した最後の謎の行動の後も、オニヤンマが視界から消えた。
オニヤンマが視界から消える場所が、ほぼ同一場所なので、回りこんで確認に行った。
すると、オニヤンマの雄がとまっている姿があった。
とまっていれば、どうにか撮影できるので、足下に気を付けながら撮影した(画像 1 )。

蜻蛉が餌を食っている姿を見たのは、シオカラトンボ(塩辛蜻蛉)と、シオヤトンボ(塩屋蜻蛉)だけしか記憶がない。
両種とも、餌を捕獲してきて、とまって食っていた。餌は、小さな昆虫や糸蜻蛉のようであった。
今回のオニヤンマは、餌の種類や、食っている様子は確認できなかった。
それなので、水面に頭部を叩きつける謎の行動は、餌の捕獲としては確認できていない。謎の行動のままである。
後日、コオニヤンマ(小鬼蜻蜓)が似たような行動をしているのを目撃した。やはり、謎の行動は、水面、もしくは水面直下の獲物を捕獲する行動である可能性が高い。


画像

画像 2 オニヤンマの雄 同一個体。地上から6~7m程度の高い枝にとまる。逆光。


一瞬でも、水面に近付いたり、水中に頭部を入れたりとの行動は、それなりのリスクがある。例えば、この水辺では、ウシガエル(牛蛙)がいたりする。
ヒト(人間)と違い、蜻蛉は限られた時間は短い。リスクを冒してまで、余分な行動はとらないであろう。本能的に種の保存のために生きる行為しかしていないのだろうから。

ところで、彼のオニヤンマの雄、水上回遊飛行の翅休め(画像 1 )の後、地上から6~7m程度の高い枝に移動した。食後の昼寝なのだろうか、私が眺めるのを止めるまでの15分間は、同じ枝にとまっていた(画像 2 画像 3 )。


画像

画像 3 オニヤンマの雄 同一個体。地上から6~7m程度の高い枝にとまる。食後の昼寝なのだろうか



と、オニヤンマの謎の行動を目撃した後で移動した。そして、登りついた稜線のこぶで、沢山のオニヤンマを見た。
初めに目に付いたのは、オニヤンマの雄が地表近くを巡航している姿だった。ヒト(私)が立っていても、膝よりの下の高さを、まるで、地表付近を舐めるように巡航していた。
その姿を見て、余程、うまい餌でもいるのだろうと思っていた。
私には別の目的もあったので、オニヤンマを眺め続けている訳にもいかなかった。

こぶの周辺を見渡すと、否応なしにオニヤンマの姿が目に入る。果たして、何匹のオニヤンマが集まってきていたのだろうか、私には数える術がなかった。
翅音が聞こえ、その方を見ると、連結がいた。翅音が聞こえる度に、一組、また一組と雄雌の連結がいた。そして、雄雌の連結は悠々とこぶの斜面を、南へ西へと下りて行った。
何組の連結を見たか数えなかったが、別の目的を後日に回して、オニヤンマの観察をすればよかったと後悔した。

稜線のこぶに沢山のオニヤンマが集まり、連結になり、交尾をする木陰を求めて、三々五々に斜面を下りていくの見て、突然に「歌垣」が思い浮かんだ。
そして、この日はオニヤンマたちの歌垣であったのだろうと思った。
熟したヤマボウシ(山法師)の果実の落果したものが目立ち、最高気温も30℃を下回った日の午後の出来事だった。


オニヤンマ(鬼蜻蜓)
トンボ目 トンボ亜目 (不均翅亜目) オニヤンマ科 オニヤンマ属
Anotogaster sieboldii
オニヤンマの顔面(前額から頭楯、大顎辺り)は、映画や時代劇に出てくる悪役の、野伏せり(のぶせり)の面頬(めんぽう)を連想してしまう。 


垣間見たオニヤンマたちの歌垣とも思える出会いの行動だが、予備知識もなかったので観察の心構えがなかった。
また、いつまでもその場にいる訳にもいかないので、こぶから下りはじめた。

そして、とある植物の観察撮影を始めようと思って立ち止まった。そしたら、オニヤンマの雄が、こぶから続く斜面に沿った直線の道に沿って往復飛行をする姿を見た。
2回ほど往復するのを眺めたが、飛行中のオニヤンマを撮る自信もないので、植物の観察を選んだ。私の背面を往復するオニヤンマの気配を感じながらの植物観察であった。
ちょうど電池切れになり、斜面に向き電池交換を始めた時に、オニヤンマの雄が、私の眼前1mほどの距離でホバリングを始めた。
電池交換で手が塞がり、どうにもならないので、ただ、オニヤンマの行動を眺めていた。
すると、ちょっと移動して、再び、ホバリングを始めた。距離が離れてしまったが、電池交換も済んだので、どうにかホバリングを撮影と思ったら、オニヤンマが突然に地上の草藪に突っ込んだ。
途端に激しい翅音が聞こえてきた。何事かと思い、近寄り始めようとしたら、連結したオニヤンマの雄雌が草藪から飛び上がった。
どうやら、その気になった雌が、草藪で、雄が誘ってくれるのを待っていたようだ。
後は、先ほどこぶの上で何回も目撃したパターンで、雄雌で連なったまま、悠々と落ち着ける場所を求めて、斜面を下りて行った。


オニヤンマの視力は餌の捕獲には適しているのだろう。左右の複眼と3個の単眼を駆使しているのだろう。
しかし、同種の雌。特に、交尾をする気になって雄を待つ雌を探すのは、さほど得意ではないのかも知れない。
こぶで地表付近を舐めるように巡航していた雄も、雄を待つ雌を探していたのだと思う。
斜面に沿っての、直線の道に沿って往復飛行していた雄も、雄を待つ雌を探していたのだと思う。
同種の雌を探す視力が良ければ、雌が雄を待っている場合、すんなりと連結できるのだと思う。

ただ、1例だけ飛行しながら出会い、空中で連結になって、斜面を下りて行った雄雌も偶然目撃した。
地面から1mくらいの高さを飛んでいたオニヤンマの雌雄だった。
オニヤンマの視力は、飛んでいる同士はよく見えて、地面付近で待つ雌は見つけづらいのだろうか。
色々と、疑問の湧いたオニヤンマの歌垣とも思えるの日だった。

毎年のように、オニヤンマの歌垣があるのなら、普通の視力のある同好の士を4人以上募って観察してみたいものである。
例えば、朝から待機して、東西南北どちらの方向から何匹登ってくるか。そして、何組がどちらかの方向に下りていくのか。などと……。
オニヤンマたちが異性を求めて集まる季節、天候条件などが予測できれば、面白い観察ができそうな気がする。
私のように散歩のついででなく、蜻蛉もしくはオニヤンマの習性とか生態に関心のある方には、特に興味深いことではないのだろうか。


ところで、
この日、水辺で水上回遊飛行をしてた雄。その後、登ってきて、雌に出会えたのだろうか。ちょっと気になっている。






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